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ぬいぐるみ好きに読んでもらいたい作品を紹介していきます。
『お客さまはぬいぐるみ』(東園絵/斉藤真紀子著)
あなたの代わりに、そして大切な人の代わりにぬいぐるみが旅をする。ぬいぐるみ専門の旅行代理店「うなぎトラベル」のドキュメンタリー。
亡き母の代わりにぬいぐるみを送り出した娘や、健康上から旅行に行けない子供の代わりにこどもに似たぬいぐるみを旅させるお母さんなど、様々な理由を持った人たちが利用し、元気をもらっている。
それぞれの話が終わる度、目頭が熱くなった。
余談だが、2013年頃この会社がフジテレビと提携し、「ぬいぐるみ旅」企画として世界中を旅するぬいぐるみの写真を募集していたことがあった。
私はうなぎトラベルを利用したことはないが、この企画に応募しお台場フジテレビにマレーシアとオーストラリアに行ったときのぬいぐるみ写真を掲載して頂いた想い出があり、この会社に非常に愛着を持っている。
ぬいぐるみ旅に興味があるけど、実際どうなの?と最後の一押しが欲しい方には非常におすすめの本。
『旅するぬいぐるみ』(映画)
とあるアメリカの少女が自分で作ったぬいぐるみ、「Daru」。ダルは少女のお気に入りのぬいぐるみだったのだが、空港でのトラブルで二人は離れ離れになってしまう。心を持ったぬいぐるみのダルは少女を探すため、世界中への旅に出る。いつか少女にまた会える日を願って・・・。
これは本ではなく、田澤潮のショートムービーだ。離れ離れになった日から年月が流れ、少女から大人へと成長していく中で次第にダルを失った悲しみを忘れていく彼女。ひたむきに少女との再会を願って世界中を旅するダル。
このムービーは間違いなく、自分の人生の中の最高傑作だ。大げさに書いているのではない。iTunesストアでこのムービーを購入してから、いったい何度これを見てきただろうか。再生回数は20をとうに超えていると思うが、いまだに見るたび「つらいね、さみしいね。えらいね~」なんていいながら泣いている。
ずいぶんと前からだが、羽田空港のプラネタリウムカフェで公開されている作品でもあるので、ぜひそちらで見るのもおすすめしたい。
(グレン・ネイプ著、新井素子 土屋裕共訳)
アメリカ人男性による著作。ぬいぐるみの歴史、購入の仕方、食事、健康、安全、写真の撮り方やお風呂の入れ方までまとめたガイドブック。
「ぬいぐるみの生殖」という項目があるし、帯には「ぬいぐるみフリーク・新井素子もびっくり・・・」なんて項目がある。怖い本だったらどうしよう、と思いながらも興味深々で手に取ったのだが、予想したよりは狂っていなかった。ただ人よりは、少なくとも私よりはぬいぐるみにどっぷりはまっている、という印象。生殖に関しても、要するにぬいぐるみを愛する人が増えれば製造量が増え、世界にぬいぐるみが増えていくということみたいだ。
本には随所に新井家にあるかわいいぬいぐるみさんたちの写真がちりばめられていて、これが非常にかわいくて癒される。
この本は、ぬいぐるみが好きではない人からの風当たりが強すぎるところがあり、そういうのを見ると傷つくのであえて感想もあまり書かないが、結論として私はこの本がとても好きだ。そしてこの作者、グレン ネイプ氏が、周囲に理解されないとわかりながらも表現することを厭わず、この本を執筆してくれたことに尊敬と感謝の念を持っている。
あんまりこの本が好きになってしまったので、こネイプ氏についてネットで検索したところ、個人のFacebokページが出てきた。やはり本のプロフィール写真と比べるとかなり高齢になっていたが、今はスピリチュアル関連の本を執筆したり教えたりと現役らしい。この本が出版された当時は30代の独身だったようだが、Facebookを見るとご家族にも恵まれたようである。
迷惑かな・・・見ないよな・・・と思いつつ、実は思い切ってFacebookからフネイプ氏にァンレターを送ってしまった。どうしても感謝を言いたかったのである。人生初ファンレター。返事は全く期待しておらず、もし見てくれたらうれしいな、と思っていた。ところがなんと2日後にネイプ氏はとても丁寧なお返事を下さったのだ!かわいらしいメッセージをありがとう、ということから始まり、今は両親の世話で南ロサンゼルスに住んでいる、まだ現役で執筆しているということなどが書いてあった。
30年前以上の昔の本ついて、どこぞの謎の日本人が突然送り付けてきたメッセージに優しく対応してくださったネイプ氏には本当に感謝だ。英語版の原作も中古をアマゾンで買い、今はイギリスから取り寄せているところである。(2018.3)
"The Care and Feeding of Stuffed Animals"
(Glen Knape著)
上にあげた、『ぬいぐるみさんとの暮らし方』の原著。無事イギリスの古本屋さんから取り寄せることができた。
手に取ってまず驚いたのが、絵本のような大判の本であること!新井素子訳の方が新書くらいのサイズなのに比べてとても大きい。
そして次に驚いたのが、写真が全部著者のネイプ氏のもので、新井版に比べて枚数が圧倒的に多いということだ。本当に絵本のようで、見開き1ページに対して1枚は必ず写真がついている。
新井版では原書からそのまま持ってきた写真には"J.Hamilton"と書いてあって、それ以外は新井氏のぬいぐるみの写真だ。
原書と日本版、同じページを並べてみた。写真も雰囲気も違うし、文章自体はおおむね同じとは言え新井氏の独特の文体ももちろん不在なのでもう違う本みたい!ちなみに原書には日本版のような挿絵はない。ネイプ氏のかわいがっているぬいぐるみへの愛が伝わって、見ていると心がぽかぽかしてくる。日本版にするにあたって写真までこんなに変えるのだな、とは思ったけど、新井氏は原書の写真に加えて新井氏自身のかわいがっているぬいぐるみで表現することでただの翻訳ではない特別な本になっている。どちらも買ってよかったなあ。どちらも宝物の本だ。
二人の著者に感謝・・・。
「正しいぬいぐるみさんとの付き合い方」
(『ひでおと素子の愛の交換日記4』より)
この本の中に収録されている「正しいぬいぐるみさんとの付き合い方」が、新井氏のぬいぐるみ愛にあふれたエッセイ。年代によるぬいぐるみとの関わり方、ぬいぐるみの性格に応じた付き合い方が書かれている。
実はこの本が、先に挙げたグレンネイプ氏の「ぬいぐるみさんとの暮らし方」が翻訳されるきっかけになった本なのだそうだ。雑誌に連載された新井氏のエッセイを読んだ方が、内容がネイプ氏の作品に近いのではということで作品を新井氏に送り、それがもとで先ほどの本の翻訳が始まったらしい。その本を新井氏に送ってくれた方には感謝しかない。
「ぬいぐるみ好きとしての初志を貫徹している人達、屈折もしなかった人達はーーあたしみたいに、人から病気だと言われるようになります。ご愁傷様です。」(105頁)
ここには噴き出してしまった。
『愛されすぎたぬいぐるみたち』
(マーク・ニクソン 著, 金井真弓 翻訳)
アイルランドのフォトグラファーが綴る、長年愛されてきたぬいぐるみたちと、その持ち主の出逢いや想い出を収集した本。中には100歳を超えたぬいぐるみも。
書店でめくったとき、あまりにぼろぼろの子が多いし、愛され「すぎた」というタイトルなので怖い本なのかと思ってしまった。
文をひとつひとつ見ていけば愛にあふれている本とはわかるのだが、やっぱり怖い。「すぎた」は、あえてそれを思ってつけたのだろうなと思う。
この本の一番最後には空白のページがあり、読者自身の「あなたが心から愛するぬいぐるみ」の写真を貼るようになっている。
この本は自分のお気に入りの子を書き添えることで完成なのだ。
自分のぬいぐるみの写真を貼ろうかとも思ったけれど、なんだかこの本の「恐怖」に自分のぬいぐるみもくくられてしまう気がしてやっていない。
愛にあふれた主観と、はたから見ると狂気に映る客観の二重性を突き付けられる。
『だれも欲しがらなかったテディベア』
(ジャネット&アラン あるバーグ著)
ぬいぐるみの立場になった物語を読みたいならこれ。
工場で縫製に失敗したため高慢な顔つきになってしまうも、自分が世界で一番すてきなクマだと信じて疑わなかったテディベアの主人公。
自己評価とは対照的に自分を大切にしてくれる持ち主とは出会えず、辛い目に遭う。
持ち主のお気に入りぬいぐるみランキングで、今まで1位だったのに転落してしまって傷ついたり、戦争が始まり持ち主に置いて行かれ、砲弾の恐怖の中でひたすら帰りを待ったり。
何があっても、どんなにさみしくてもいつか自分を一番愛してくれる持ち主が現れると信じて諦めないぬいぐるみたちが健気で愛しい。
児童書だがそれなりに長く、大人でも満足できる内容だと思う。
自分のぬいぐるみの声を聞いたようで、読了後はお気に入りの子がさらに愛おしくなる。
古い本なので新品は手に入らないと思うが、アマゾンでは中古が安価で手に入る。(2018年時点)
『テディ・ベアの おいしゃさん』
ー好かれて、かわいがられて、ほうりだされて、すてられる。見つけられ、ひろわれて、またかわいがられて、こんどは、なくされる。それが おまえたちの一生だと?-
捨てられたテディ・ベアと、それを拾い、修繕して面倒を見てあげているおじいさんの絵本。
捨てられてしまったテディ・ベアたちには、どうして自分が捨てられたのかはわからず、持ち主との楽しかった思い出、また会いたいという気持ちをおじいさんに泣きながら話している。
おじいさんはそれを聞いてやり、かわいがり、クマたちの新しい未来へとつなげていく・・・という話。
きれいな絵と、単純でありながら心に刺さる言葉が印象的。
『ビロードのうさぎ』
(マージェリィ・W・ビアンコ著 酒井駒子 絵・訳)
世界中で愛され、日本でも何冊か出ている名作を、『森のノート』をはじめとする絵本作家・酒井駒子が手掛けた本。小さな男の子「ぼうや」はクリスマスにビロードでできたきれいなうさぎの人形をもらう。ぼうやに愛されて幸せいっぱいで、「ほんもの」になったような満ち足りた気持ちのうさぎ。しかし、ぼうやの病気をきっかけに突然2人に別れがやってくる。
酒井駒子の描く、どことなく憂いを帯びた子供とうさぎのイラストが物語ととてもよく合っていて、なんだか切なくなる美しい本。大人にこそ手に取ってもらいたい。
『ぬいぐるみ物語』(水庫弘子著)
著者とぬいぐるみとの個々の思い出、不思議な体験が綴られたハードカバーのエッセイ。
作中には著者が書いたぬいぐるみのイラストが随所に出てきて、かわいらしい。たまたまスーパーで見かけたかわいいぬいぐるみを探し求め、ようやく出会えたときのうれしさが表現されたエピソードや、ドライブ中具合の悪くなってしまったときぬいぐるみをぎゅっとしていたら不思議と治ったお話など全10話が収録されている。
話の随所には著者のご主人が登場するのだが、旦那さんはそこまでぬいぐるみ好きに対して理解を示していないようである。とはいえ全く拒絶されているわけでもなくて、そのあたりの体験や心理、攻防が一般の読者に共感を覚えさせるところなのではないだろうか。「その気持ちわかる~!」!などと独り言を言いながら読んだ。
例によってアマゾンから中古で手に入れたのだが、これがとても高かった・・・。しかし後悔は全くしていない!出版元の文芸社のことを私はあまりしらなかったのだが、この出版社は商業出版を扱いつつも自費出版もメインにやっている会社らしい。この本もどうやら自費出版のようである。そのような本が手に入ったうれしさと言ったら・・・。
また著者が早稲田の教育卒だというのに感動してしまった!自分と同じ学部にこんな本を書いて下さった大先輩がいたなんて!
『ぬいぐるみ遊び研究の分水嶺 ー自我発達と精神病理ー』
なぜ自分は大人になってもぬいぐるみが好きなのか?
その疑問を心理学的に知りたい方にはこの本。
大阪国立大学の2つの論文を掲載したものである。
著者の1人堀本氏(執筆当時大学院生)自身がぬいぐるみ好きであり、表紙カバーのぬいぐるみも執筆者自身のお気に入りの子だそうだ。
もう一人の執筆者、中井氏は心理学者であり、氏の娘のぬいぐるみに対する関わり方をきっかけに堀本氏とは違う面からこどものぬいぐるみ遊びを論じている。
堀本氏が論文冒頭から「ぴ」ちゃんというぬいぐるみへの愛を披露し、氏の世界では「ぴ」ちゃんは<ぱぴぷぺぽ大学大学院>を修了したことになっている・・・等というにはさすがにぬいぐるみ好きの私も(良い意味で)驚いてしまった。氏は先に挙げたうなぎトラベルも利用したことがあるそうだ。
心理学の教養がないとなかなか理解するのに難しいが、自己分析に非常に役立つ一冊だ。
『ぼくは、東京トガリです。』(東京トガリとおとうさんおかあさん著)
ぬい撮り好きにおすすめの写真集。
2017年からTwitterで「東京トガリ」という生き物の生活を写真でアップしている人気アカウント(@togarirecord)のファーストフォトブックだ。
写真があまりにも素晴らしく、そしていきいきとしているのでもはやトガリちゃんをぬいぐるみと呼んでいいのかも自信が持てなくなってくる。素人にはとうてい真似できるものではないけれど、ぬい撮りをする人はこんな風になら撮れるかも、などきっとヒントをもらえるはず。
その他
『星につたえて』
(安東 みきえ 著, 吉田 尚令 イラスト)
これはぬいぐるみ好きというよりくらげ好きにおすすめの絵本。
まだ海の生き物といえばくらげくらいしかいなかった頃のお話・・・。
海にうかぶ小さなくらげは、ある日ひとりぽっちで旅するほうき星と出会い、夢のような楽しい一晩を過ごす。
「何百年かたてば、また会えるかも」と、流れていってしまったほうき星に、伝えたい言葉があったのに伝えられなかったくらげ。
何百年って、どのくらいなんだろう。わからないくらげはお空を見上げながらずっと待ち続けているけど、やがて年ををとっていく。
切なくて、心が温かくなる物語。