小さな同居人を得た
ぬいぐるみではないけど、すてきなものを買ったという記録。
日本橋高島屋に行ったとき、ステーショナリー雑貨を扱うtouch and flowという店で、小さな家々が並べられているのに目を引かれた。
ペンキをぬった木のブロックに小さな玄関、飴玉のような電灯、繊細な針金で作られた木々。
クラフト作家の結城琴乃さんという方が作っているものとのことで、店内で個展をやっていたのだった。
「春の風におされて」という名の個展だった。
その街並みはモノクロ写真の中のように静謐なのに、それでいて人の気配がするような、物語を想像させる不思議な感じ。
家によっては屋上にくつろげるテーブルとイスが並べられていたり、窓から上に登れるようにはしごがついていたり。
春風を運んできたかのような、薄く透けた帆が美しい大きな船もあった。
一瞬でその世界に引き込まれてしまい、その中で特に気に入った家を1つ(1軒?)買った。
そのときは、どちらかというと孤独になりがちな自分に、小さな同居人が一人できたような気持ちだった。
この家にはだれかが一人で住んでいるような気がしたのだ。
屋根の上に木が植えられた家、家族みんなでこしかけられそうな椅子がたくさんある家、何十人も住めそうな大きな家などいろいろな種類があったけれど、私が選んだ家は誰かが一人で、静かに、かつ満ち足りた気持ちで暮らしているような気がしたから、決めた。
その日はほくほくして帰った。
ベッドサイドに家を飾ったらぴったりだった。
朝起きたときや仕事から帰ってくるとき、小さな家から同居人が出てきて、あいさつしてくれるような気がした。
しばらくするとまたあの街並みを見に行きたくなってしまって、2日後に再び高島屋へ行った。
店内の小さいスペースでじっくり悩んで、また買ってきたのが写真にある土台のジオラマだ。
ジオラマには繊細な針金でできた木が1本と、長くのびた電灯が1つ、そして物干し竿。
物干し竿にはハンガーまでついていて、ゆらゆらと揺れる。
お店に行く前、最初は「また家をひとつ買おうかな」と思っていた。
きらきらとしたイルミネーションがついた家や、たくさんの人の息遣いが聞こえてくるような3階建ての家などはとてもすてきだった。
しかし同居人のように感じているあの家の住人は、1人であることが肝心な気がして、自分の部屋にたくさんの人がいて、それぞれ楽しく暮らしているのはなんとなく違うなと思った。
それならば、屋根の上のスペースやくつろげるベンチを持たない我が家の同居人にすてきなスペースをプレゼントしようと思って、このジオラマを選んだ。
ジオラマはガラスのドーム型になっている。
ジオラマに家を置いてみたら、ますます同居人の物語の創造をかきたてられるようになった。
洗濯物を干した後は、この椅子に座って青空を眺めるのかな、とか、
友達が来たときはこの椅子に腰かけてお話しするかもしれないし、
本を片手に昼から一人でワインでも飲むかもしれない。
明日からはこの木に寄り添って、私にあいさつしてくれるかもしれない。
こんなに静かで、物語を感じさせる作品を見たのは初めてだ。
すてきな作家さんに出会えてよかった!
個展で声をかけてくださった、春色のきれいな服を着たtouch and flowの店員さんも、あたたかい方でうれしい気持ちになった。
今回の個展では作家さんは来ないので、店頭に並べたのは店員さんたちだそうだ。
すてきなディスプレイだったし、心をこめて飾ったから、思い入れがあるのかもしれない。
そのきれいな店員さんは「この針金の木に、何か小さい飾りをつけたらきっとかわいいですね、クリスマスツリーみたいに」と仰っていた。
作品に自分が何か手を加えるというのは全く想像もしなかったけれど、それもすてきだなと思った。
透明なガラスビーズをつけたら雨の雫みたいにきれいだろうし、小さな明かりをつけたら夜に私の部屋を照らしてくれる。
作品を大切に思う気持ちが伝わってくるような気がして、この家の大事な思い出がひとつできた気分だった。
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